ガーデニングと不耕起栽培

新しい発想との出会い

最近、不耕起栽培についての本を読みました。栽培方法というよりも、土づくりに関する内容でした。そこで得たものは、「土を耕すと、土は育たない」ということ。ガーデニングをやっていると、土壌改良のために資材を入れて耕耘(こううん)するというのが常識ですが、もしかしたら耕耘することは実は土づくりになっていなかったかもしれない、と考えるようになりました。不耕起栽培の考え方をガーデニングにも応用できたら、ガーデニングの常識が変わるのではないか__そんな新しい発想との出会いがあり、ワクワクした気持ちが膨らんでいます。 ここでは、現時点での私の不耕起ガーデニングの考え方や、実際に取り組んでいる内容をまとめてみたいと思います。

不耕起栽培とは何か?

 

不耕起栽培とは、土を耕さずに自然の力を活かして作物を育てる農法です。自分なりにこの農法のポイントは、①土壌をむき出しにしないこと、②むやみに土を掘り返さないこと(耕耘しないこと)の2つだと思いました。

①は、地表に落ち葉や草、わらなどの有機物を敷き詰める「マルチング」を行います。土壌の乾燥を防ぎ、雑草の抑制にも役立ちます。また、土壌動物、微生物のエサになります。

②については、土壌動物や微生物、菌根菌といった小さな生き物たちのすみかである土の中の環境を壊してしまうことを防ぎます。これらの生き物たちは、落ち葉や枯草、虫の死骸などの有機物を食べながら、あるいは植物の根に共生しながら、生活しています。代表的なミミズをはじめとして、生活の中で自然と土をふんわりとした団粒構造にして、水はけや保水力を向上させるとともに、植物に必要な栄養を供給してくれています。 耕耘をしてしまうと、せっかくこれらの生き物たちが作りあげた団粒構造を破壊してしまいます。また、土の中でバランスを取り合ってきた生態系をかき乱してしまうため、「土を育てる」ことができない、ということです。

このように、不耕起栽培では「土を育てる」という意識が大切で、土を自然のまま健康な状態に保つ(育てる)ことが、結果として植物の健康な成長につながります。しっかり土を育てることができれば、養分も自然の循環でまかなうことが可能になったり、植物が持つ害虫に対する抵抗力を引き出すことができるため、肥料や農薬を低減することができます。耕さないことで作業の手間も減り、環境への負荷を軽減しながら持続可能な農業を実現するのが不耕起栽培の大きな魅力となっています。

まだ見ぬ可能性_不耕起ガーデニングの未来を想像する

 

ガーデニングに不耕起栽培を取り入れた「不耕起ガーデニング」に取り組むことで、これからのガーデニングがもっと環境に優しく、手間が少なく、コストも抑えられる可能性が広がると考えています。 不耕起ガーデニングでは、①土をむき出しにしない、②土を掘り返さない、この2つを原則として、植物を育てながら「土を育てる」ことを意識します。

①を効率的に実行するために、粉砕機(枝などをチップにする機械)を導入してみました。マルチングによる効果を先ほど述べましたが、「土を育てる」ことをより意識すると、たとえばわらを敷くにしても、束の状態で敷くよりも、細かく粉砕されていたほうが土壌動物が分解しやすくなります。すぐにエサとして食べてもらえるほうが、「土を育てる」ことにスピード感が出るはずです。そのため、マルチングする際には、細かく粉砕した状態が効果的だろうと考えました。 実際に大きくなりすぎてしまったススキの葉や、通常は処分していたヒマワリやコスモスの茎や葉を粉砕機で細かく砕き、むきだしになっていた花壇の土にマルチングしてみました。まるでペットを飼うかのように、土壌動物や微生物にエサを供給する感覚です。「土を育てる」ということは、土を育ててくれる「土壌動物や微生物を育てる」ということだと感じています。

コスモスを粉砕した様子

粉砕機の導入と①の考え方に基づいたマルチングにより、本来処分していた植物を活用することになり、循環が生まれました。ヒマワリやコスモスの例では、これまではお金をかけて処分していたものを活用したため、処分費がかからなくて済みました。もっと循環を上手に行えば、環境負荷やコスト低減につながる可能性がありそうです。

②については、不耕起や土を掘り返さないことを意識して、これまでは牛ふん堆肥や腐葉土などの土壌改良資材を土にすきこむ(混ぜ込む)ことをしていましたが、それらをやめてマルチングにしました。 また、こぼれ種で増えたお花たちを抜いて処分していたのですが、根元から切り、土中に根を残したままにしました。マルチングにより育てている土壌動物や微生物が作ってくれる団粒構造を壊さないこと、生息環境をかき乱さないこと、残った植物の根も、土の中で循環させることを意識しました。

それから気を付けることとして、発酵していない(生の)有機物を土に混ぜ込まないことです。不耕起の考え方と併せて、窒素飢餓を引き起こす原因をなくすためです。さきほどのヒマワリやコスモスでは、粉砕しただけの生の状態のため、すきこんでしまうとそれを分解するために微生物たちは本来植物が利用する窒素も使ってしまいます。そうなると窒素が足りなくなり、植物の生育に障害となります。 すきこみではなくマルチングでは、土と有機物が表面だけ触れ合っているので、障害を起こすほどの窒素飢餓は起こりづらいと考えています。

①と②を意識することで、水やりや草取りの頻度低減、購入していたマルチング材の節約、草ごみ処分費の低減、耕耘→整地の作業負担低減など、さまざまなメリットを感じました。目指すところは良質な土づくりではありますが、土壌動物や微生物たちの活躍を待つ方法のため、それを実感するにはまだ時間がかかりそうです。 ただ、数年手を入れずに(耕耘せずに)いる花壇の土を見てみると、自然と団粒構造ができていて、明らかに耕耘している花壇の土より良い状態になっていました。必要以上に人間が手をかけなくても、良い土づくりはできると確信が持てました。

耕耘していない花壇の土はふかふかでした

課題や将来展望

 

なんだか万能な気がしてくる不耕起ガーデニングですが、まだまだ課題もあります。 公園におけるガーデニングでは、きれいな花を長期間楽しめる状態にすることが求められます。それを可能にするための主流となっているのが、ビオラ、サルビア、ベゴニアなどの1年草を使った花壇です。これら1年草は、長期間花を咲かせるため、養分がたくさん必要になります。 この時に化学肥料の力を借りるのですが、化学肥料は「植物だけ」を育てる肥料であり、これまでの「土を育てる」観点から見ると、使用を控えたいものの1つになります。しかし、自然の養分循環や有機肥料だけでは、長期間の1年草花壇は維持できないのではないか、と不安が残っています。 また、プランターや鉢などの容量が小さいところでは、そもそも不耕起ガーデニングが応用できないのではないか、など様々な課題が残されています。 不耕起ガーデニングは、土を掘り起こす機会の少ない宿根草メインのナチュラルガーデンで最大限効果が発揮できる方法なのではないか、と感じています。

もっと体制を整えることも課題です。落ち葉や刈草を集めて堆肥化したり、緑肥植物を導入したり、さらには動物を組み込んだり、より早く「土を育てる」ことができれば、不耕起ガーデニングの成果も早く期待できそうです。

1年草を切り取ったあとも、土をむき出しにしない

おわりに

不耕起栽培の知識を得ることで、新しいガーデニングの考え方やノウハウが広がるのではないか、と思ったところから、実際に試していることや今後の課題なども含めてまとめてみました。 不耕起栽培を知ってから、農業にとても興味がわき、いろいろな情報を集めています。新しい考え方、という紹介をしましたが、化学肥料や機械がなかった頃の農業はもともとそうだったはずです。科学の進歩や人口の増加とともに化学肥料や農薬も広がり、大量生産が可能になり、形が変わって現在に至るのです。 有機農業や自然農法、不耕起栽培といった知識や技術は、ガーデニングにも必ず役に立つと感じているので、もっと知識を増やしていきたいと思っています。 完璧な答えはないけれど、いろいろと模索することの面白さをみなさんにも共有出来たらうれしいです。

スタッフ 酒井